Mio Fertility Clinic

不妊症の原因は様々ですが、治療を選択されるうえでもどこに原因があるのかを知っておく事は大切な事です。原因をしっかりと見極めることで、的確な治療方針を確立できます。

卵巣に原因がある場合

無排卵

卵巣機能が正常であれば、月経開始後卵巣内で卵胞が発育し、直径20ミリ程度の成熟卵胞となり、やがて卵胞表面が破れて排卵が起こります。この排卵が規則的に起こるには、脳の卵巣機能をコントロールする部位が正常に働く必要がありますし、卵巣が排卵できる状態でなければなりません。これがきちんと機能しないと排卵が起こらず(無排卵)、月経が不規則になり、やがて月経も来なくなってしまいます(無月経)。ホルモン検査で無排卵の程度や理由を明らかにし、お薬できちんと治療すれば必ず排卵が起こるようになります。

(LUF)黄体化非破裂卵胞

卵巣内で発育した卵胞は直径18~20mm位になると脳下垂体から排卵を促すホルモン(黄体化ホルモン、LH)が分泌されて、一定時間後に排卵し卵胞は萎みます。しかし、成熟した卵胞でもLHの分泌によって排卵せず卵胞がどんどん大きく成ってしまう(直径30~50mm位)場合があり、この様な卵胞をLUFと呼びます。この様な場合でも、基礎体温(BBT)は高温相となり、いかにも排卵後の様相を呈します。しかし、排卵していないため妊娠には至りません。LUFは基礎体温が2相性でいかにも排卵していると思われる月経周期の約15%程度に認められ、これは超音波断層法にて排卵の確認を行わないと診断できません。

(PCO)多嚢胞性卵巣

卵巣辺縁に数珠状(Necklace sign)に未熟な卵胞が並び、典型的ホルモン異常を伴う排卵障害です。超音波断層法で観察するとその特徴的な像が簡単に観察でき、ホルモン検査と合わせて診断は容易です。上手な排卵誘発により排卵も起こるようになり、妊娠のための治療は専門的知識を持った不妊治療の専門医であれば簡単に行えます。

卵管に原因がある場合

クラミジア感染症

毒性の弱い病原菌であることから、感染しても自覚症状がほとんどなく、気がつかないうちに、妊娠するためにもっとも重要な器官の機能が障害される場合が多いのが現実です。程度が軽ければ、クラミジア感染のみを治療すれば妊娠可能となりますが、障害の程度が重く卵管が詰まってしまったり、腹腔内が広く癒着していたりすると、自然な妊娠は困難となり、妊娠するために、手術や体外受精が必要となります。感染の検査方法として、男性は尿道の細胞から、女性は子宮の入り口の細胞からクラミジア抗原を検出する方法が主ですが、この方法は実際の感染者の約20%程度しか陽性と判断できません。そこで、妊娠を希望される場合は、血液検査によるクラミジア抗体測定法による検査で正確な判定をする必要があります。治療法は抗生物質の服用で治療できますが、必ず、ご夫婦またはパートナーとお二人で治療される事が重要です。ただし、感染による女性側の生殖器周辺のダメージの状況は必要に応じ別途に検査をされる必要があります。

子宮内膜症

子宮内膜とよく似た組織が骨盤内の腹膜や卵巣表面に増殖し、月経が起こる際に、増殖した組織でも(月経様)出血が起こる状態をいいます。普通は起こらない出血がお腹の中で起こるため、体の防御反応として癒着が起こり、不妊症の原因となります。また、子宮内膜の部位からしみだした液体が腹水としてお腹にたまり、その腹水中に妊娠を妨害する作用のある物質が多く含まれていて、お腹の中の妊娠する環境を悪化させているのです。

癒着

別々の組織がくっつくことを癒着と言います。また、別の言い方をすると、傷ついた組織が治ることを意味します。お腹の中では色々な臓器の表面は腹膜という皮膚で覆われているためそれぞれの臓器が接触していたり、重なり合ったりしていても癒着は起こりませんが、腹膜が傷つく状態(子宮内膜症、クラミジア感染、手術後など)になるとその傷が治っていく過程で周囲の組織間に癒着が起こります。この癒着は卵管と卵巣の位置関係を変化させたり、卵管を動きにくくしたりして卵管が排卵した卵を取り込むことを妨害します。日常の生活には何ら影響のない癒着も、妊娠のためには致命的影響を及ぼす可能性があることを知っておく必要があります。

受精に原因がある場合

受精障害

成熟した卵と一定の数以上の精子が出会えば、その中の1個の精子が卵に侵入して受精が成立します。しかし、希に精子にも卵にも特に異常が認められないのに受精が起こらない場合があります。これを受精障害と言います。一般的には、特に明らかな原因のない不妊症夫婦の3~5%に受精障害があると言われます。例えて言うと、卵の殻(透明帯)にある鍵穴と精子が持っている鍵が合わない状態と言えます。体外受精の方法で受精が起こるか否かを確認し(受精テスト)、受精障害が確認されると現在では顕微授精によって受精できます。

免疫不妊

生物の体は自分以外の存在が体内に侵入すると完璧に外敵(異物)と見なして白血球やある種の蛋白(抗体)が攻撃し、排除することにより体の健康を維持しています。この機能を免疫といいます。精子も実は女性の身体にとっては外敵ですが、女性の体は例外的に精子を自分の外敵と認めず受け入れ、結果として卵と受精し妊娠が成立します。このような例外的認識は男性には決して出来ない女性特有のすばらしい能力です。ところが、一部の女性では、精子を外敵と誤認し蛋白(抗精子抗体)の攻撃により精子の活動を停止させてしまいます。このような状態を「免疫不妊」と呼んでいますが、この抗精子抗体は挙児希望の女性の約3%に認められます。精子の活動が停止しますので、他に異常がなくても受精が起こらず、必然的に不妊になります。精子は抗精子抗体のない状態では正常ですので、免疫不妊に対しては“抗精子抗体のない環境で受精させる”、つまり、体外受精が唯一の治療法となります。体外受精を行うことで妊娠が望めます。

精子に原因がある場合

乏精子症

自然な夫婦生活にて妊娠可能な精液所見の基準は、精子濃度(1mlの精液中の精子の数):5000万以上、精子運動率(全精子中の動いている精子の割合):50%以上です。乏精子症とは、精子の数が正常の状態から減少した状態を言います。精子の数がどの程度かによって、妊娠のための治療法を選択します。現在の男性ではほぼ全員が以前に比べて精子数が減少しており、乏精子症は激増しています。

精子無力症

精子の数は減少してはいないものの、運動している精子の割合が低下した状態を言います。運動精子が少ないことで妊娠しにくくなります。

無精子症

精液中に精子が存在しない状態を言います。精子が作られていても何らかの理由で精子を送り出せない場合と、睾丸内で精子が作られない場合があります。生殖補助医療技術(ART)による、少ない精子を有効に用いた方法が行われています。

クラインフェルター症候群

クラインフェルター症候群は、性染色体異常から起こる疾患で、もっとも特徴的症状は睾丸で精子を作ることができない、いわゆる無精子症となることです。通常、ヒトの染色体は46本あり、そのうちの44本は常染色体と呼び、残りの2本は性染色体と呼びます。この2本の性染色体がX染色体のみで構成されていると女性となり、X染色体1本とY染色体1本で構成されていると男性になります。ところが、男性の中には500人に1人程度の頻度で、性染色体が3本あり、47,XXYの構成になっていることがあり、これをクラインフェルター症候群と言います。従来クラインフェルター症候群では無精子となると考えられていましたが、クラインフェルター症候群の男性の精巣から組織を取り、詳しく調べるとごくわずかに精子が存在することが確認され、この精子を用いて顕微授精をし、妊娠できることが分かりました。日本では1998年7月に、MFCで日本初の妊娠・出産例を得ました。その後も多くのご夫婦の治療を手がけ、現在までに、たくさんの元気なお子さんが生まれています。妊娠不可能とされてきた男性も妊娠のチャンスがあることが明らかになりました。現在も、MFCではクラインフェルター症候群の治療を手がけている施設です。決して希望を捨てずに、根気強く頑張ることが大切です。